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第1話 拝啓この旅の行き先へ。【カタルシスレコード】-part1

公開日:2017年06月07日

最終更新日:2017年06月13日

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目の前の少女を見る。
彼女は、不思議な雰囲気を纏っている少女だった。

黒髪に黒い目。それは、日本人としては当たり前というか、不自然な感じを抱くことはないけれど、でもどこか不思議だった。
西洋人みたいな容姿をしているから?
いや、それは違う。そもそも今の世の中、日本に西洋人やハーフがいることはもはや当たり前である。
彼女の雰囲気が何からもたらされているのか、私にはわからなかった。

花月弥生(かづき・やよい)はそんなことを考えながら、窓の外へ視線を移した。
視界に映るのは、窓に反射して見える自分自身のつまらなそうな顔。
イスから伝わってくる体を揺らす振動しか、今は楽しめるものがなかった。

ちらりと横目で自分の思考の中心にいる少女を見た。
弥生は、その少女――アリスとどうやって出会ったのかまるで覚えていなかった。
高校の頃、席替えで隣になって意気投合したのが初対面だろう、とアリスは言った。
それは、その通りなのだ。
しかし、アリスが同じクラスだったということを、弥生はその席替えまで知らなかった。
違和感があるわけではない。仲が良かったわけではないのだから、記憶が曖昧なのは仕方がないかもしれない。
それにしたって。

「アホらしい」

考えるのをやめた。
そんなことはどうでもいいのだ。何故なら私は今、とても疲れているから。

県外の大学へ通うため、一人暮らしをするためバイトをしたり家を探したりと準備を進めてきて、ようやく今日が旅立ちの日だった。
朝早く起き、これからしばらくは食べられない母の手料理を味わって、そして準備をして、家を出た。
父も母も寂しそうな顔をしていたが、泣いてはいなかった。
二人目だからな、私は。

弥生には姉がいた。
年齢が5つ離れていて、――これは身内びいきな意見になるが――才色兼備の見本になるような人だった。
弥生は、そんな姉が大好きだった。
姉は家から通える大学へ進学し、考古学者となった。
今は、日本にはいない。
世界のどこかで遺跡を発掘しているのだろう。

――早くお姉ちゃんに追いつきたいな。

弥生も姉を追うようにして、同じ道を選んだ。

姉より少し偏差値の低い県外の大学の、文学部歴史学科。


そう、そして慣れ親しんだ家を出て、最寄りの駅。今弥生の目の前に座っている少女、アリスと落ち合った。
彼女もまた弥生と同じ大学、同じ学部に進学するのだ。
だから同じアパートを借りて、隣の部屋に住むことになった。
一緒には住まない。面倒だから。

しかし、そこでアリスが家に携帯電話を忘れたと言い出して、タクシーで慌てて家に戻り、あわや電車に乗り遅れる、といった事態に陥ったのだ。
結論を言えば間に合ったのだが、駆け込み乗車をしたため電車内のアナウンスで注意され、とても恥ずかしい思いをするハメになった。
あんなに走ったのは、中学の陸上大会以来かもしれない。

そんな騒動の種である少女は、弥生の目の前で新聞を広げている。
つまらない。いつになったらトンネルを抜けるのか。あまりに長過ぎないか。
そもそも私がこんなに疲れているのは、アリスのせいなんだ。
それなのに私をこんなに退屈させるなんて、酷いんじゃないか。
私に構うべきだ。話相手になるべきなのだ。

拝啓この旅の行き先へ。part2に続く


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